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わたしのねがいではなく

ルカによる福音書 22章 39〜53節 「私の願いではなく」 2019.04.14

ルカによる福音書 22章 39〜53節 「私の願いではなく」
                     2019年4月14日 山田 雅人 
▼「イエスは、日中は神殿の境内で教え、夜は出て行って『オリーブ畑』と呼ばれる山で過ごされた」(ルカ21:37)―オリーブ山にあるオリーブ畑、それが当該箇所の舞台である、「油を搾る場所」という意味のゲッセマネ。イエスは弟子たちと最後の晩餐を終えた後ここに戻り、十字架刑を前にして祈った後、逮捕されることとなる。
▼自分の危機がいよいよ間近に迫っていることを感じたイエスは、ゲッセマネで3回に及ぶ(マタイ、マルコ並行箇所)苦しみに満ちた祈りを神に捧げる。これがいかに苦悩に満ちた時であったかは、イエスの状況を表わす言葉によって想像できる―「イエスは苦しみもだえ」、「汗が血の滴るように地面に落ちた」―イエスは間違いなく揺らぎ、十字架を避けようとしたのだ。
▼二つの思いの間でイエスは葛藤する。「父よ、御心なら、この杯をわたしから取りのけてください。」―これは、出来ることなら十字架にかかりたくはない、という叫びに他ならない。一方、イエスにはもう一つの思いもあった。「しかし、わたしの願いではなく、御心のままに行ってください」―こちらは、神にすべてを委ねていこうとする祈りである。この二つの思いの間で葛藤するイエスの横で、弟子たちは「誘惑に陥らないように祈りなさい」と求められていたにもかかわらず、眠り込んでしまう。こうしてイエスは、神の意志に服従することを決意する。
▼イエスの祈りに神からの直接の答えはなく、神は終始一貫して全く沈黙している。イエスはこの神の沈黙の中に、「神の奇跡的な介入が意味をなさない」ことを改めて悟ったのだろう。荒れ野の誘惑でイエスが神の力を使うことはせず、ただ神の意志に従うことを選んだように、彼はここでも「私の願いではなく、御心のままに」という道を選ぶ。苦難を回避する道ではなく、苦難に入っていく道を選び取ったイエスにこそ、神は「然り」を言われた。
▼十字架はイエスにとって予定されていた自明の道ではなく、平然と受け取り得る運命でもなかった。揺れ動くことは不信仰だと言われたり、信仰者は堅く立って揺れ動かないことこそ大事などと言われる。しかし、人は揺れ動くのだ。我々に求められているのはこの揺れを無くすことではなく、揺れ動く我々を生かし、支え、力を用いて下さる神に自分を委ねていくことである。それが、「私の願いではなく、御心のままに」というイエスの告白である。
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